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とっくに他人じゃないふたりを 世間が他人に させておく
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こんばんは!
久々にやっと一話書きあげました。

書き初めにタイトル考えると、微妙にそれとずれてくる気がするんですがどうだろうか。

↓ 雑伊SS
タイトル:一途なロクデナシ

※5年後イメージです。
だがタソガレドキで夫婦ってないのでnot捏造未来にカテゴライズ。
書いてる人間的なけじめなので読んでる方は気せずOK。

※両片思い大好き!な方向けかもです。
※会話劇くさい。

そういえば、と湯呑みから口を離し雑渡は笑った。
「この間久しぶりに伏木蔵に会ったけど、あの子綺麗になったねえ。」
まったく、と伊作はため息をついた。

「伏木蔵に無体なことをなさったら許しませんからね。」
「わかってるよー。信用ないねえ。」
「普段の行いのせいでしょう?あなた、ああいう子もお好きのようだし。」
「やだなあ、私が君の可愛い保健委員に無体な事するわけがないじゃない。」
「保健委員でなければなさるんでしょう。あまり私の周りの子を弄ばないでくださいね。」
「ふふふ。君が私のものになってくれたら私もつまみ食いなんかしないんだけど。」
「生憎と、私は誠実な方が好きなんです。」

「私は誠実だと思うけどなあ。君には嘘もつかないし、何もかも話してるんだよ。私の気持ちも過去の色事も立場のめんどくささも。誰が私にしなだれて誰をどんな風に抱いたか、私が隠した事は一度もないよ。」
どうだ、とばかりに胸を貼る雑渡に伊作はいつものように呆れた顔をする。
「…では訂正しましょう。私は一途な方が好きなんです。身も心も私だけ、そういう人でなくては嫌なんです。」
「嫌だなあ、それなら尚のこと私ほどふさわしい男はいないよ。
そんな事を言う君のために、私は余計な殺しをたくさん繰り返して、それでもまだ君のことばかり想っているんだよ。ここ数年、君のために私を狙う輩の多いこと多いこと、特に君に懐いていた後輩くんを殺した時は流石に心が痛んだなあ。まあでも、後輩君たちは想い人に墓守りをしてもらえるんだから、幸せ者だよね。」

「ここは廃寺のままで使わせてもらうつもりだったんですけどね。それにあなたは、子供には本気を出さないと思ってましたよ。」
「出さないよ?だけどあの子達はもうプロになったのだから、本気を出してあげないと可哀想だよ。恋敵に哀れまれて手加減されるなんて、殺されるより許せないと思うし。
ま、あくまで私の考えだけど。」
伊作くんはどう?とばかりに雑渡は首を傾げるが伊作は意に介さずに、とんとんと包帯を次から次に並べてゆく。

「そんなことより、早く包帯を替えさせてください。まったくあなたときたら、出会った頃より言い訳ばかりで自分の身を労いもせず傷を少しも治させないんですから。」
「いやー忙しいんだよ、これでも。」
だからつい、と頭をかく雑渡の空いた湯呑みには、微かに湯気をあげて芳しい薬湯が注がれる。

「忙しい人は、仕事の合間をぬって稚児遊びにいそしんだり医者を口説きに来たりその後輩にデレデレしたりなさらないと思いますよ。そんな暇があったら仮眠をとったり部下の方に包帯を取り替えていただいてください。さ、冷ましてる間に頭、終わらせますよ。とっとと頭巾外してくださいな。」
「本当、伊作くんはつれないのか大胆なのかわかんないねえ。」
「なんですかそれ。」
「だって二人きりの今、脱げだなんて大胆じゃない。」
「いつものことですよね。」
「そうだけど、そこがつれないなあって。」
「はいはい、わかりましたから、さっさと脱いでください。」
「だいたいこんなところで無防備に顔や傷を晒せなんてさ、私がコワーイ人達に襲われたらどうするの。」
「タソガレドキの組頭が、何を言ってるんですか。」
コワイコワイとおどける雑渡に、伊作はやっと砕けた微笑みを見せて楽しげに答えた。

雑渡が寺の周りを幾人もの部下に囲ませている事を、伊作は知っている。
自分を守る為ではなく伊作との時間を守る為に、無粋な他者が入り込む余地を雑渡が許さない事を、知っている。けれどここを訪れても軽口をたたくばかりで、伊作に無理強いをしないことも知っている。
どういう意図でか、5年前に告げられた雑渡の恩返しという好意はいまだ伊作に向けられているらしい。
そして伊作は、卒業した今は、それに遠慮なく甘えている。組織に属さぬ医師としては、後ろ盾はある方が良いし何より伊作自身がこの縁を愛おしいと思うようになってしまったから。
「死ぬとしたら私だけですよ。」

「伊作くんこそ、何言ってるの。」
シュルリを解いた頭巾で伊作の頭を覆い、雑渡は柔らかな笑顔のけれど真剣な目で昏黒の瞳を近づける。
怖い事を仰るわりにいつも優しい目をしておられるなあとまっすぐ見つめ返す伊作に、雑渡の方が目を逸らしコツンと額をあわせ呟いた。
「そんなこと、私が許さないよ。君がいなければ私はどうしたらいいんだい。」
雑渡が泣けば昏黒の雫が落ちるのだろうか。
見てみたいけれど、彼の涙腺は恐らく満足に機能していない。こういう時に湧き起こる温かいものが愛情か同情かは伊作にもわからない。
ただただ愛しくて、伊作は被せられた頭巾で自分の顔を隠すようにして雑渡の乾いた目元に唇で触れた。
バッと顔をあげた雑渡に、伊作は慈母のような顔で答えた。
「私が先に死んだら、あなたが不届きな遊びをしないようにとりついてさしあげます。」
「本当に、君はつれないねえ。」
顔中をくしゃりと歪めた途端に包帯の下の傷がひきつれるのを堪えながら、それでも雑渡は笑った。

「さ、包帯外しましょうね。」
「まあ、そういうところが好きなんだけど。」
小さく呟いた雑渡の言葉を、伊作は聞かぬふりをした。
死なないと言えない、愛してるなんてもっと言えない。
自分に出来るのは、他の患者にするより少し優しい傷の手当と療養指導だけ。

戦場で出会って、いつの間にかあなたの傷の事ばかり心配して、胸が苦しくなるほどあなたを乞うて諦めて自分の道を取った私の、これがたったひとつの恋のやりかた。
口説き文句を絶やさぬくせに相変わらずロクでもない行状のあなた。
果たして私の恋心は、あなたにばれているのかいないのか。
私の気持ちを知っているなら、どうかずっとずっと生きてまたここへ戻ってきて。
伊作は今夜も、願掛けのように包帯を巻く。


「きつくないですか?」
「うん大丈夫、ところで伊作くん。」
「はい?」
「このお薬、飲まなきゃだめ?」
「駄目です。」
特製ですからと二十歳にもなってとても可憐に笑う伊作に、雑渡が抗えるはずがなかった。
だって彼ほどの愛をくれる人は、他にいない。

 

-終わり-

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