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↓ 雑伊SS
タイトル:山梔子

※クチナシは「梔子」なのですが、山に咲く白い花のイメージなので、頭に山をつけました。一応、実の事はこう書いて「サンジシ」とも言うそうなので、いいかなーって。
※両片思い。
※後半長次でばってます。

OKな方は続きをどうぞ。


あの人から貰った山梔子の花


鎮痛効果があるからと話した翌日に貰った。
たくさんの実と、花一輪。

「季節外れに咲いていたから。」
そう言って、まだ濡れた髪に指された、花一輪。

「この花は、私だよ。」

「え?」

首をかしげれば、似合うねと囁き目を細めて、僕の髪に口づけたあの人。
翌朝、彼の触れた自分の髪に櫛を通す事さえ躊躇われ、僕は初めて自分の髪に口づけをした。

けれどそれから、彼は忍術学園に現れない。
何度か、医務室で眠れず過ごした。泣く事はなかった、僕はただ途方にくれていた。彼を乞うて泣けるほど、僕は聡くなかった。自分がなぜ途方にくれているのかもわからなかった。ただ眠れないだけで、なんとなくぼんやりと彼の訪れを待つうちに、倒れてしまった。

体が眠らないでいられる限界まできてしまっていたのか、久しぶりによく眠っていたらしい。不思議にパチリと瞼が開いて目を覚ませば、泣き怒る留さんに抱きしめられ、仙蔵にはデコピンされ、文次郎と長次には頭を撫でられ、小平太には留さんごと抱きしめられた。
ひとしきり大騒ぎし、新野先生に授業だからと5人は追い立てられ、もう少し眠りなさいと促される。
部屋を出るみんなに手を振って、枕に手を伸ばせばそこに、あった。

文を結びつけられた山梔子が一輪。

気配は微塵も無い、もう駆けていってしまったのかそれともまだどこかにいて僕を見ているのか。
けれど、彼が顔を見せてくれないなら今は会えぬという事だろう。
どのみち今の体では動くこともままならない、僕はもどかしく文を解く。

『ぬばたまのきみがくろかみ こよひもか あがなきとこになびけてねらむ』

名前はない、ただそのうただけが全てだった。

そしておぼろげな確信を持って僕は甘く苦い夢想に囚われる、彼は僕と同じ心だったのだと。そしてやはりこれは告げてはいけない心だったのだろう、浮かれた甘いその名で呼ぶ事さえいけない気持ちなのだ。
少なくとも僕と彼にとっては。
だから彼は大人の彼は何も告げずに去ったのだ。

涙がぼろぼろとこぼれ落ちる、堰を切ったように止まらない。

僕は文を濡らさないように強く手の内にに握りしめる。力の入らない拳をつよく強く、握りしめる。言葉なんか要らなかったのに、彼はとても優しくてその眼差しは温かくて、僕はいつもとても幸せで。
告げられぬ思いならずっと閉じ込めていたって構わなかったのに、ただ2人でいられたら。
嗚呼違うそれでも、どうしてと思わずにいられない。
あの夜、彼が触れてくれた時に何故その手を取らなかったんだろう。口にしてはいけない気持ちだとわかっているけれど、せめてすがって、その腕に抱かれたかった。もう会えないと知っていたなら、せめて別れを告げてくれたなら。
嗚呼どうして、あなたはひとりで決めて行ってしまうの。
僕が子供でなければ、あなたと行けたの、共に生きられたの。
嗚呼、どうして、僕はこんなにあなたが恋しいの。

「雑渡、さん…」
散々泣いて疲弊してた頭で、僕はせめて僕の心も同じだと伝えたいと、思った。


山梔子は長次に教わって花びらを押し花にした。
いつか彼に、送れたらと彼を真似て、うたを書いた。
古い時代のうたを模して、それはとても僕の心に近かったから。

『あさねがみ われはけずらじ うるはしききみがゆびさき ふれてしものを』

 


「山梔子をなぜくちなしと呼ぶか知っているか。」
「えと、実がなかなか割れないから、だっけ。」

「そう、昔の人はそんなくちなしを慎み深いと思ったようだ。」
「へえ?」
何だろうと首を傾げる僕の頭を撫で、長次は頷いた。
「実の内が満たされている事をひけらかさず、またそれ以上を求めない慎み深いものだと、転じて清潔さを意味する場合もある。また実のうちにぎっしりと宝を抱いているので、喜びを運んでくるものと例えられたりもする。伊作に、似合いだ。」
「えっそっそう!?」
「そう。いつも、みんなの手当てをしてくれるだろう。むずがる仙蔵も小平太もあやしてしまうだろう。」
「手当ては当たり前だし。あやすとか、そ、そんな事ないと思うけど。」
「そんな事、ある。」
と、また頭を撫でられた。

「あのひとも、それを知っていたのかもしれない。」
あのひと、と長次が言うからには花の贈り主の察しはついているのだろう。
「わかって、た?」
「伊作は花も実も草も大抵薬にしてしまうだろう、形を残しておきたがるのは特別なものだ。伊作にとって特別な人はひとりしか思い当たらなかった。」
「そ、か。長次から見て、私のあのひとへの感じは特別なものだったんだ。」

長次は少し目を見開いた。
「…自覚していなかったのか。」
「うん。」
つい最近倒れるまで。と続ければため息をつかれまた頭を撫でられた。

「あのひとは、自覚していたようだぞ。」
「う、ん。そうなのかなって、今は思ってるよ。」
「花にはな、沢山意味言葉を持つものがあってな。解釈の微細な違いゆえだろうが。」
「う、うん。」
「山梔子は、私は幸せ者である、という意味もあるんだ。実のうちがぎっしり満たされてそれがこぼれ落ちる口も無いから、という事から、贈る相手に。」
「幸せ…。」

「そう、贈る相手といられてという意味だと思う。」
「幸せなのは、私だけじゃなかったのかな。」
ぼろぼろ涙がこぼれた。
今度は嬉しくて、幸せで。
彼は、うたより先に伝えてくれていた、ただ僕が気づかないだけで。
気づかない僕のために、もう一度、花とうたを届けてくれた。
嗚呼それこそもう何もいらないくらい、僕は幸せ者だ。

僕は山梔子の押し花と、彼に貰ったうたと自分のうたをひとつに包み、大切に引き出しにしまった。

- 終 -

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